トンカントンカン・・・

船上には、釘を板に打ち付ける軽快な音が響いている。

トントンカンカン・・・

作業をしているのは2人。
メインマストの柱を挟んで向かい合わせに座っているのは2人の青年。
先ほどサフィに怒られたアベルとジャンだった。
アベルは短めの茶髪をワインレッドのバンダナで覆っており、ジャンは普段肩に流している女性のように長い髪を、今は高い位置で纏めていた。金槌を振るうのに邪魔だからである。
2人とも、ぶすっとして八つ当たり気味に金槌を振う。

「あれぇ〜?ジャンがアベル手伝ってるー」

サフィが去って以来無言で作業を続けていた2人だったが、その長い沈黙は子供特有の高い声で破られた。
間延びした声と共にブリッジに上がってきたのは、ヤマト。
肩口で切りそろえられた金髪を揺らしてヤマトはとてとて とジャンの元へ寄って行き、隣にしゃがみこむ。

「どしたの、ジャン?」

あまりにも意外そうに言われたのでジャンは何か反論してやろうと思ったのだが、大きなブルーの瞳にじっと見つめられ、詰まってしまった。

「おい、ヤマト。そこの釘を取ってくれ」
「はいはーい」

柱の反対側にいるアベルに言われ、ヤマトは足元に散らばっている釘を集めて渡してやる。
そして、また元の位置に座りなおすと珍しいものでもを見ているかのような目でじーっとジャンの手元を見つめ始めた。

「・・・ヤマト、どうかしたのかい?」
「うん。珍しいなぁ〜と思って」

ジャンの言葉に、にっこりと笑って答えるヤマト。

「明日は雨か?」
「そうだねぇ〜嵐になるかもねぇ」

わざとらしいアベルの言葉に返すヤマトは、やはり笑顔のまま。
子供は純粋だが時として残酷である。

「・・・誤解しているみたいだけど、私だって必要あれば大工くらいやるんだよ」

何と言い返そうか散々考えあぐねたジャンだったが、子供の純粋さには勝てなかった。
ため息交じりにそう言い、再び金槌を動かしはじめる。
ヤマトもまた、その姿の観察を続行した。

「ところでヤマト、お前何か用があって来たんじゃないのか?」
「んー?」

しばらく黙って作業を続けていたアベルだったが、ふと思い出して柱の反対に呼びかける。
ヤマトは船長に呼ばれて、船長室を訪れていたはずだ。

「ああ、そういえばローズちゃんが呼んでたよ〜」
ポン、と手を打ってヤマトは言う。

「ローズが?」
「うん」

アベルの問いに、こくんと頷く。

「誰をだい?」
「2人をー」

ジャンの言葉に、2人を交互にみる。

『何で?』
「ごはん、出来たって」

2人の異口同音の質問に、にっこり笑ってヤマトは答えた。

『それを早く言え!』

それを聞いた瞬間、2人は持っていた金槌やら釘やらノコギリやらを放り出して船室の方へ駆け出した。
この船のコックを務めるローズ・クォーツは時間に煩い。
彼はその中でも遅刻に一番厳しかった。自分が用意した食事に遅刻する者には、ことのほか。

「めずらしいものみたから、つい忘れてたよー。ごめんねー」

ケラケラ笑ながら、ヤマトも2人の後を追った。
今日のご飯は何だろう?さっき肉の焼ける香ばしい匂いがしていたから、今日はご馳走かもしれない。
そう思って、ヤマトはパタパタと階段を駆け下りていった。


海賊たちの日常