この壊れた世界で私たちは何のために生きてるんだろう。
毎日のように進入してくる大人たちを殺して、それ以外にはすることもなく。
ただ、ただなんとなく生活している。
こんな欠陥だらけの世界を守る意味なんてどこにも見当たらないけど。
それでも仲間を守るために私は生きる。
あの子達が笑ってくれるのなら。
それだけのために、私は生きている。
Moon shine
「オイ、アスカ」
「ん?」
「今日の、何処の奴?」
「西」
「・・・アイツの?」
「そう」
食事後片付けはオオヤとアスカの役目。
元から口数の少ないこの2人に、弾んだ会話など存在しない。
ただ淡々と用件のみ伝え合うだけの話。
だが不思議と2人の間の空気は冷たくはない。
「それ、どうなわけ?」
「どうって?」
「契約違反とかなんねぇのかってこと」
「さぁ?下っ端が勝手にやったことだと思うけど」
「ああ、そう」
それきり無言で作業を進める。
そう広くも無い炊事場に、食器のぶつかる音と、水が跳ねる音だけが時折響く。
「オオヤ」
「あ?」
「コレが片付いたら、私は少し出てくるから」
泡を洗い流し最後の皿を拭いていたとき、ふいにアスカは手を止め視線はそのまま食器に向けて言う。
昨夜遅くに届いた面倒な通知を思い出したからだ。
「コウのトコ、か?」
「そう」
「じゃあ、俺も行く」
「は?」
思いがけない同行の意に、アスカは持っていた皿を落としそうになった。
普段からコウという人間を毛嫌いしているオオヤが、自分から彼の元へ出向くなどどういった風の吹き回しか。
頭1つ分上背のあるオオヤを見上げてみる。
しかし、彼の表情からは何を考えているのかまでは読み取れなかった。
「たまにはいいだろ。あいつのツラ拝んどくのもよ」
「・・・好きにして」
勝手にしますとも とボソリと返し作業を終了させると、オオヤは一旦奥へ消えた。
待っているうちにアスカは入り口に掛けてある濃紺の上着をとる。
それは先ほど外で殺してきた男と、同じ作りのもの。
否、襟にある刺繍と膝まである丈が、アスカのものの方が上位であることを示している。
本来なら羽織らなければならないのだが、その気にはなれない。
「おう、悪ぃな」
すぐに戻ってきたオオヤは手に大振りの日本刀を持っていた。
「・・・持って行く気?」
「ん」
「ま、いいけど」
街の中で襲われることはあまりないけれど、先程の男の例もある。
用心するに越したことはない。
「あれぇ〜?アスちゃんオオちゃん、どっか行くの〜??」
出ようとした2人をリューイが見つける。
「コウのとこ」
「リューは留守番な」
「えぇ〜ぼくも行きたい!」
「駄目だ。オマエはレイの手伝いしてな」
「う〜」
自分は連れて行ってもらえないと知り、膨れるリューイ。
すると、声が聞こえたのかレイが奥から顔をだす。
「あ?何2人揃ってお出かけかい?」
「ああ。コイツ頼む」
「了解。ホラ、リュー。コイツ等が出てるときは、お前と俺でサヤ守る約束だろ?」
「・・・うんっ!そうだね。サヤちゃんまもるんだよね!」
そういわれると、リューイはすぐ笑顔になった。
単純なものである。
「じゃあな」
「いってらっしゃ〜い」
2人に見送られ、アスカとオオヤは『家』を後にした。
***
街を出て少し歩いた郊外にある、仰々しい建物。
これだけのものが作れるなら、その分を節約して街の住民に降ろして欲しいものだが、そんなに人の良い連中ではない。
なんせ、世界を壊した張本人。軍の人間が建てたものなのだから。
「相変わらずデケェな」
「私の趣味じゃない・・・」
アスカとオオヤは西方軍の駐屯地に来ていた。
と言っても、今朝のことを伝えに来たわけではない。
昨日『家』に送られてきた電報により、呼び出されたからだ。
普段なら一々応じるアスカではない。
しかし送信者が西方軍きっての曲者で無視するとあとあと面倒そうだったので、久しぶりに足を運んだのだ。
「おい、貴様、止まれ」
門兵が素通りする2人を見、慌てて止めようとした。
しかし、アスカはまるで門兵の言葉など耳に入っていないかのように、歩みを止めようとはしない。
「こら、止まれと言っているのがわからんのか!」
門兵は怒ってアスカの肩をつかむ。
「・・・はなして」
そこで初めてアスカは門兵の方を見た。
冷たい、氷のような視線。
一瞬ひるんだ門兵だったが、職務を全うするため手に力をこめる。
掴まれた肩が痛むのか、アスカは少し眉を寄せた。
「オイ、放せっつってんだろうが」
放そうとしない門兵に向かい、オオヤは言う。
彼の手は、無意識に刀の柄へまわっていた。
が
「貴様らのような小汚い餓鬼が足を踏み入れるような場所ではない。このまま下がらぬなら、命は無・・・ッ!?」
「何を騒いでいるんですか?」
門兵の言葉は途中で遮られた。
建物から出てきた、人物の穏やかな声によって。
「リク様!」
「アンタか」
「外が騒がしいと思って出てみれば・・・どうやらうちの者が無礼を働いたようですね」
『リク』と呼ばれたのは、2人とさして変らぬ年齢に見える少年。
さりげなく門兵を自分の背に庇い、アスカとオオヤに笑いかける。
とても軍人には見えないその少年は、しかし西方軍では少尉以上のものでなければ着ることの出来ない、膝上までの丈の軍服を纏っていた。
ちなみに、アスカが腕にかけているのはリクと同じものであり、朝の男や目の前の門兵などはそれよりも低位の腰までのものを羽織っている。
「すみません、まだ彼は軍に入って日が浅いんです。」
「別に、かまわない」
にこにこと笑いながら言われ、アスカもオオヤも毒気を抜かれた気分になる。
アスカは適当に答え、オオヤは肩をすくめた。
しかし、そこで終わらないのがリクという少年である。
「でしたら、その物騒なものから手を放していただけますか?」
刀の柄に手を置いているオオヤではなく、一見何も構えていないように見えるアスカに向かってリクは言った。
その言葉に、オオヤは片眉を上げ、柄を持つ手に力をこめた。
だが、アスカは軽く嘆息して左腕にかけていた上着を右手で取り去る。
そこから現れたのは、鈍く光る銀色の銃。
アスカはそのまま上着を無造作に羽織り、持っていた銃を内側のポケットにしまった。
それに習いオオヤも刀の柄から手を放す。
一見、話の通じなさそうな門兵を斬ろうとしていたのはオオヤだが、その前にアスカが銃を使っていただろう。
元々沸点の低い2人である。
リクが現れなければ、門兵がどうなっていたかは明らかだ。
「リ、リク様。この連中…、いえ、この者達は?」
「口を慎みなさい。お2人はコウ様の御客人です。先ほどのあなたの対応。知らなかったとはいえ、処分されても文句は言えませんよ?」
「ッ!?も、申し訳…」
「まぁ、処分というのは冗談ですが、無知は恥だと思いなさい。今後気をつけるように」
「は、はい」
入隊してから日が浅いという門兵だが、見る限り、リクよりも一回りは年上。
少年に小さくなって謝る大人 というのも滑稽な光景だ。
「さぁ、ここからは僕がご案内します。着いてきてください。コウ様がお待ちです」
そう言うと、リクは3人に背を向け、門の中へと歩き出した。アスカとオオヤも無言でその後を追う。
門には事情がいまいちの見込めない、門兵だけが残された。
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拳銃とか日本刀とかナイフとか。
そんなモノが大好きです。あ、でも戦争は嫌いです。
2007/05/23*緋月