赤い土
青い空
半壊したビルに、アスファルトの剥げた道
どこもでも広がる、荒野、荒野、荒野。
2753年に戦争は終わった。
世界の破壊 というカタチで。
人類の大半の滅亡 というカタチで。
それでも地球は回っている。
2763年。
世界は、壊れたまま、続いていた。
Moon shine
「手ェ出す街を間違えたね。子供ばかりだからといって、弱いわけじゃあない」
おそらく、30年くらい前までは華々しく建っていたと思われるビル。
それも今では瓦礫と化し、通行を妨げるゴミにしかならない。
そんな瓦礫の一角で、ほんの少し前まではヒトだったモノが冷たくなっている。
体の半分以上が脂肪でできていそうな、40代の男。
否、男だったモノ。
ソレを前に、何の感情も浮かんでいない顔で少女は立っていた。
手には冷たく、重い塊。
狙いを定め、トリガーを引くだけで簡単に肉隗が増えるモノ。
装飾なんて一切ない、銀色の拳銃。
「紺は西・・・奴の部下?」
目の前の肉隗が纏っている服。
西の軍人が着ているのと同じ、濃紺。
「軍人といえど、所詮は大人か」
大人は信用ならない。
醜く、歪み、暴力的で。
略奪行為を繰り返すのも大人。
小さな子供を平気で蹴り飛ばし、踏みつけるもの大人。
『配給』の名目でこの街を訪れる軍人も、一皮剥ければこの通り。
『泉』と『歌姫』を奪う為に自分達を襲う、愚劣な生き物。
「コウの奴、部下の管理くらいして欲しいな・・・」
眉を顰めつつ、肉隗に背を向ける。
いつまで眺めていても、醜いものは、醜い。
「アスカちゃーん」
そろそろ帰るか とビルをでたところで、息を切らしながら走ってくる少年が見えた。
「リューイ、どうした?そんなに慌てて」
少年の姿を見、"アスカ"と呼ばれた少女の表情は少し緩んだように見えた。
「あのねぇレイちゃんが、ゴハンできたよーって」
「それでそんなに走ってきた?」
「うんっ。だってせっかくのゴハン冷めたら嫌でしょ?」
まだ息は整わないものの、無邪気に言うリューイ。
「まったく。今から帰ろうと思ってたのに」
苦笑まじりに返しつつ、歩き出す。
「あっ、待ってよぅ!!」
急いで後を追うリューイ。
「ホラ」
そう言って出されたアスカの左手に、リューイは己の右手を絡ませ、『家』へと帰っていった。
***
「お、やっと帰ってきたか。せっかくの飯が冷めるぜ?」
『家』に戻った2人を、笑顔で迎える少年。
「オマエ何処まで行ってた?」
「ちょっとアスカ、また服汚したわけ?洗う身にもなってよ〜」
その声を聞いて奥から仲間達が出てくる。
「レイちゃん、アスちゃん見つけるの、大変だったよ〜」
「おう。ご苦労さん。ホラご褒美にリューは大盛りな」
「やったぁ〜」
リューイに笑いながら皿を渡すのがレイ。
「そんなに遠くへ行った覚えはないよ。それと服は仕方がない。返り血を避けるのは得意じゃないんだ」
「ああ、そうかい」
適当なアスカの答えに、大して気分を害した様子も無く返すのがオオヤ。
「得意不得意の問題じゃない!血って落ちにくいのよー」
アスカの服に残る黒ずんだ染みを見つけ、嘆くのがリン。
そして
「アスカ?」
さらさらと流れるような、声。
「ここにいるよ、サヤ」
アスカは声の主の頬に触れ、返す。
「おかえりなさい」
「ただいま」
サヤと呼ばれた少女の双眸は閉じられたまま、開くことはない。
10年前の戦争は世界以外にも沢山のものを奪っていった。
サヤからは光を。
リューイからは心の成長を。
オオヤからは記憶を。
アスカからはほとんどの表情を。
そして、リンやレイを含め、全員が家族を奪われた。
それでも世界は続いている。
欠陥だらけの世界は、ボロボロになりながらも続いている。
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昔高校の部誌用に書いてた話のパラレルバージョンです。
2007/04/30*緋月